フェアトレードと気候変動の関係|持続可能な農業で地球を守る取り組み

2025.07.03
フェアトレード 気候変動

地球規模で深刻化している気候変動問題と、発展途上国の生産者を支援するフェアトレードには、実は密接で重要な関係があります。一見すると異なる分野の課題のように思えるかもしれませんが、フェアトレードの取り組みは気候変動の緩和と適応の両面において重要な役割を果たしています。Ethical&SEA(エシカルシー)では、エシカルでサステナブルなライフスタイルを提案する中で、フェアトレードが地球環境保護に果たす役割の重要性をお客様にお伝えしています。気候変動とフェアトレードの関係は、単なる環境問題を超えて、社会正義、経済開発、食料安全保障など多岐にわたる課題が複雑に絡み合った構造的問題です。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告によると、農業分野は世界の温室効果ガス排出量の約24%を占める一方で、気候変動の影響を最も受けやすい分野でもあります。特に、発展途上国の小規模農家は気候変動の影響を最も深刻に受けており、適応能力の不足により生計が脅かされています。フェアトレードは、こうした農家に対して経済的安定と技術支援を提供することで、気候変動への適応力を高め、同時に持続可能な農業実践を通じて排出削減にも貢献しています。今回は、気候変動とフェアトレードの直接的なつながりについて、科学的根拠と具体事例を交えて詳しく解説していきます。

気候変動が農業生産者に与える深刻な影響

異常気象の増加と農作物への被害

気候変動により、干ばつ、洪水、台風、熱波などの極端気象現象の頻度と強度が増加しています。国連食糧農業機関(FAO)の報告によると、過去30年間で気象災害による農業被害は3倍に増加し、年間約250-300億ドルの経済損失が発生しています。

特にコーヒー、カカオ、紅茶などのフェアトレード主要産品は、特定の気候条件を必要とする作物が多く、気温上昇や降水パターンの変化により栽培適地が大幅に減少すると予測されています。国際コーヒー機関の研究では、現在のコーヒー栽培地域の約50%が2050年までに栽培不適地になる可能性があることが示されています。

小規模農家の脆弱性

発展途上国の小規模農家は、気候変動の影響を最も深刻に受ける集団の一つです。世界銀行の調査によると、気候変動により2030年までに約1億3200万人が貧困に陥る可能性があり、その多くが農業に依存する地域の住民です。

小規模農家が特に脆弱である理由は、限られた資源、技術へのアクセス不足、リスク分散手段の欠如、気候情報へのアクセス困難などがあります。また、単一作物に依存することが多いため、その作物が気候変動の影響を受けると収入源を失うリスクが高くなります。

食料安全保障への脅威

気候変動による農業生産の不安定化は、地域および世界レベルでの食料安全保障を脅かしています。IPCCの第6次評価報告書では、気候変動により作物の収量が地域によって10-25%減少する可能性があることが示されており、特にアフリカ、アジア、中南米の熱帯・亜熱帯地域での影響が深刻になると予測されています。

フェアトレードによる気候変動緩和への貢献

持続可能な農業実践の推進

フェアトレード認証を受けるためには、環境保護に関する厳格な基準を満たす必要があります。これには、化学農薬の使用制限、有機農法の推進、土壌保全、水資源の適切な管理、生物多様性の保護などが含まれます。これらの実践は、農業分野での温室効果ガス排出削減に直接的に貢献しています。

有機農法は、化学肥料の製造・使用に伴うN2O(一酸化二窒素)の排出を大幅に削減できます。また、堆肥や緑肥の使用により土壌の有機物含有量が増加し、土壌炭素の蓄積が促進されます。国際有機農業運動連盟(IFOAM)の研究では、有機農業は従来農業と比較して、単位面積あたりの温室効果ガス排出量を15-20%削減できることが示されています。

アグロフォレストリーシステムの導入

フェアトレード農園の多くで採用されているアグロフォレストリー(森林農業)は、農業と森林を組み合わせた持続可能な土地利用システムです。コーヒーやカカオなどの作物を樹木の下で栽培することで、炭素隔離、生物多様性保全、土壌保護を同時に実現できます。

世界アグロフォレストリー研究センター(ICRAF)の調査によると、アグロフォレストリーシステムは従来の農業システムと比較して、1ヘクタールあたり年間1-3トンの追加的な炭素を隔離できることが確認されています。

再生可能エネルギーの活用促進

多くのフェアトレード認証組織では、フェアトレード・プレミアム(社会発展奨励金)を活用して再生可能エネルギーシステムの導入を進めています。太陽光発電、小水力発電、バイオガス発電などにより、化石燃料への依存を減らし、温室効果ガス排出削減に貢献しています。

コスタリカのコーヒー協同組合では、コーヒーの果肉を利用したバイオガス発電システムを導入し、農園の電力需要の80%を再生可能エネルギーで賄っています。このシステムにより、年間約150トンのCO2排出削減を実現しています。

フェアトレードによる気候変動適応支援

耐候性品種の導入と多様化

フェアトレード組織では、気候変動に対応するため、干ばつ耐性や高温耐性を持つ作物品種の導入を支援しています。また、単一作物への依存を避けるため、複数の作物を組み合わせた多様化農業システムの構築も推進しています。

エチオピアのコーヒー生産者協同組合では、従来のアラビカ種に加えて、より高温に耐性のある在来品種の栽培を再開し、気候変動への適応を図っています。また、コーヒーと並行してスパイス類やフルーツの栽培も開始し、収入源の多様化を実現しています。

水資源管理システムの改善

気候変動により降水パターンが変化する中で、効率的な水資源管理システムの構築が不可欠です。フェアトレード農園では、点滴灌漑システムの導入、雨水ハーベスティング、水利用効率の向上などの取り組みが行われています。

ペルーのコーヒー生産者協同組合では、フェアトレード・プレミアムを活用して効率的な灌漑システムを導入し、水使用量を40%削減しながら、干ばつ時でも安定した生産を維持できるようになりました。

気候情報サービスの提供

フェアトレード組織では、生産者が適切な農業判断を行えるよう、気象情報や気候予測情報の提供も行っています。スマートフォンアプリやSMSを通じて、天気予報、降水量予測、病害虫発生予警報などの情報を提供することで、リスク軽減を図っています。

炭素隔離と生物多様性保全への貢献

土壌炭素の蓄積促進

フェアトレード農業で推奨される有機農法やアグロエコロジー的手法は、土壌中の炭素蓄積を大幅に促進します。化学肥料に代わる有機物(堆肥、緑肥、作物残渣など)の投入により、土壌の有機物含有量が増加し、長期的な炭素貯留が実現されます。

国際土壌炭素研究所の調査では、適切な有機物管理により、農地土壌の炭素含有量を年間0.1-0.3%ずつ増加させることが可能であり、これは世界の年間炭素排出量の約10%に相当する炭素を土壌に蓄積できることを意味しています。

森林保護と生態系保全

フェアトレード基準では、既存森林の保護と新たな森林破壊の防止が義務付けられています。また、農園内および周辺の自然生態系の保全も重要な要素とされています。これらの取り組みにより、森林炭素の保護と生物多様性の維持が同時に実現されています。

マダガスカルのバニラ生産者協同組合では、フェアトレード認証の一環として、生産地域周辺の原生林保護活動を行っており、約1,000ヘクタールの森林を保全しています。この取り組みにより、年間約3,000トンのCO2相当の炭素蓄積を維持しています。

 

消費者の選択が気候変動対策に与える影響

フェアトレード製品選択による炭素削減効果

消費者がフェアトレード製品を選択することで、間接的に気候変動対策に貢献することができます。フェアトレード認証コーヒー1杯の消費により、従来のコーヒーと比較して約20%の温室効果ガス削減効果があるという研究結果もあります。

これは、有機農法による肥料起源の排出削減、アグロフォレストリーによる炭素隔離、再生可能エネルギーの使用、輸送効率の改善などの複合的な効果によるものです。

ライフサイクル全体での環境負荷削減

フェアトレード製品は、生産から消費、廃棄まで製品ライフサイクル全体での環境負荷削減を重視しています。持続可能な包装材の使用、地産地消の推進、製品寿命の延長、リサイクル促進などにより、総合的な環境負荷軽減を実現しています。

国際協力と政策支援の重要性

パリ協定との連携

2015年に採択されたパリ協定では、各国が自主的に温室効果ガス削減目標を設定し、その達成に向けた取り組みを実施することとされています。フェアトレードは、特に発展途上国における農業分野での削減・適応対策として、各国の国別決定貢献(NDC)に組み込まれる事例が増えています。

持続可能な開発目標(SDGs)との統合

フェアトレードの気候変動対策は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の複数の目標達成に同時に貢献しています。「気候変動に具体的な対策を」(目標13)だけでなく、「貧困をなくそう」(目標1)、「飢餓をゼロに」(目標2)、「陸の豊かさも守ろう」(目標15)などの達成にも寄与しています。

今後の展望と課題

2030年・2050年に向けた長期戦略

国際フェアトレード機構では、2030年までに温室効果ガス排出量50%削減、2050年までにカーボンニュートラル達成を目標とした長期戦略を策定しています。この目標達成に向けて、より効果的な気候変動対策の実装と普及拡大が計画されています。

スケールアップの課題と解決策

フェアトレードの気候変動対策をより大規模に展開するためには、資金調達、技術移転、能力開発、政策支援などの課題があります。これらの解決に向けて、国際機関、政府、民間企業、市民社会の連携強化が不可欠です。

特に、小規模農家の組織化強化、技術普及システムの構築、金融サービスへのアクセス改善、市場アクセスの拡大などが重要な要素となります。

フェアトレードと気候変動対策の統合的アプローチは、地球環境保護と社会正義の実現を同時に達成する革新的な取り組みです。Ethical&SEA(エシカルシー)では、こうした取り組みの最前線にある製品を通じて、お客様に気候変動対策への参加機会をご提供しています。コーヒー一杯、チョコレート一枚の選択が、遠く離れた生産地での炭素削減と農家の生活改善に直接貢献していることを実感していただけるよう、詳細な情報提供と丁寧な説明を心がけています。私たち一人ひとりの日常的な選択が、地球温暖化を止め、より公正で持続可能な世界を実現する力になることを、ぜひ体験してください。未来の地球のために、今日からできることを一緒に始めませんか。