日焼け止めとマイクロプラスチック問題|洗い流される成分が環境に与える影響

私たちが日常的に使用している日焼け止めが、実は深刻な環境問題の一因となっていることをご存知でしょうか。近年、海洋汚染の大きな要因として注目されているマイクロプラスチック問題において、化粧品に含まれるプラスチック成分が重要な発生源の一つとなっています。Ethical&SEA(エシカルシー)では、エシカルでサステナブルなライフスタイルを提案する中で、日焼け止めに含まれるマイクロプラスチックが環境に与える深刻な影響について、お客様に正確な情報をお伝えしています。マイクロプラスチックとは、直径5mm以下の微細なプラスチック粒子のことで、日焼け止めには感触改良剤、光沢剤、フィルム形成剤として様々なプラスチック成分が配合されています。これらの成分は製品使用後に洗い流され、下水処理場でも完全に除去されることなく、最終的に河川や海洋に流出しています。国連環境計画(UNEP)によると、海洋に流出するマイクロプラスチックの約28%が化粧品由来であり、その中でも日焼け止めは使用量と使用頻度の多さから、特に大きな影響を与えているとされています。今回は、日焼け止めに含まれるマイクロプラスチック成分の種類と機能、それらが環境に与える具体的な影響、そして私たち消費者ができる対策について、科学的根拠に基づいて詳しく解説していきます。
マイクロプラスチックとは?基本的な定義と分類
マイクロプラスチックは、国際的に「直径5mm以下のプラスチック粒子」と定義されており、さらに大きさによって「マイクロプラスチック(1μm-5mm)」と「ナノプラスチック(1nm-1μm)」に分類されます。発生源による分類では、製造時から微細な粒子として作られる「一次マイクロプラスチック」と、大きなプラスチック製品が環境中で劣化・分解されて生じる「二次マイクロプラスチック」に区分されます。
化粧品に使用されるマイクロプラスチックは一次マイクロプラスチックに該当し、意図的に製品に配合されています。海洋研究開発機構の調査によると、日本近海のマイクロプラスチック濃度は世界平均の約27倍に達しており、その発生源として化粧品・パーソナルケア製品が重要な位置を占めています。
特に日焼け止めは、夏季を中心に大量に使用され、海水浴やプールなどの水域で直接洗い流されることが多いため、マイクロプラスチック汚染の直接的な発生源となっています。また、日常的な使用後のシャワーや洗顔でも、継続的に環境中に放出されています。
日焼け止めに含まれるマイクロプラスチック成分
ポリメチルメタクリレート(PMMA)
ポリメチルメタクリレート(PMMA)は、アクリル樹脂の一種で、日焼け止めには主に感触改良剤として使用されます。PMMAの微粒子は、製品にシルキーでなめらかな使用感を与え、白浮きを軽減する効果があります。また、光拡散効果により、肌を美しく見せるソフトフォーカス効果も提供します。
PMMAは透明度が高く、光学特性に優れているため、高級日焼け止めや化粧下地機能を持つ製品によく使用されています。しかし、この成分は生分解性がなく、環境中で長期間残存するため、海洋生態系への蓄積が懸念されています。
ナイロン-12
ナイロン-12は、ポリアミド系のプラスチックで、球状の微細な粒子として日焼け止めに配合されます。この成分は優れた皮脂吸着性を持ち、テカリを防止する効果があるため、特にオイリー肌向けの日焼け止めに使用されます。また、滑りを良くする効果もあり、塗布時の摩擦を軽減します。
ナイロン-12の粒子は非常に均一で、化学的に安定しているため、製品の品質維持にも貢献します。しかし、この安定性は環境中でも変わらず、分解されることなく蓄積し続けるという問題があります。
ポリエチレン(PE)
ポリエチレンは、最も一般的なプラスチックの一つで、日焼け止めには主にスクラブ剤や感触改良剤として使用されます。ポリエチレンの微粒子は、古い角質を除去する効果があり、肌の表面を滑らかにします。また、製品のテクスチャーを改良し、塗り心地を向上させる効果もあります。
ポリエチレンは化学的に不活性で、人体への直接的な害は少ないとされていますが、環境中での分解性は極めて低く、海洋環境での長期蓄積が問題となっています。特に、海洋生物による誤食や、食物連鎖を通じた濃縮が懸念されています。
ポリスチレン(PS)
ポリスチレンは、軽量で加工しやすいプラスチックで、日焼け止めには光拡散効果を目的として配合されます。ポリスチレンの微粒子は光を効率的に散乱させ、肌の欠点を目立たなくするソフトフォーカス効果を提供します。
しかし、ポリスチレンは環境中で分解される際に有害物質を放出する可能性があり、海洋生物への毒性影響が特に懸念されています。また、食物連鎖を通じて上位捕食者に蓄積する生物濃縮の問題も指摘されています。
マイクロプラスチックが環境に与える影響
海洋生態系への直接的影響
海洋に流出したマイクロプラスチックは、様々な海洋生物に深刻な影響を与えています。プランクトン、魚類、海鳥、海洋哺乳類などが、餌と間違えてマイクロプラスチックを摂取することが世界各地で確認されています。
東京農工大学の研究チームによる調査では、東京湾で採取された魚類の約80%からマイクロプラスチックが検出されており、その多くが化粧品由来と推定される球状粒子でした。これらの粒子は消化器官に蓄積し、栄養吸収の阻害や内臓損傷を引き起こす可能性があります。
食物連鎖を通じた生物濃縮
マイクロプラスチックは食物連鎖を通じて上位捕食者に濃縮されることが明らかになっています。小型の海洋生物が摂取したマイクロプラスチックは、それらを食べるより大きな生物の体内に移行し、最終的に人間の食卓にも到達する可能性があります。
世界保健機関(WHO)の報告によると、市販の海塩の90%以上からマイクロプラスチックが検出されており、これらの多くが化粧品由来と推定されています。また、養殖魚や天然魚からも検出が報告されており、食品安全性の観点からも懸念が高まっています。
化学物質の運搬体としての機能
マイクロプラスチック粒子は、その表面に様々な化学物質を吸着する性質があります。海洋中の残留性有機汚染物質(POPs)、重金属、内分泌攪乱物質などが粒子表面に濃縮され、それらを摂取した生物の体内で放出される可能性があります。
これにより、マイクロプラスチック自体の物理的影響に加えて、化学的な毒性影響も懸念されています。特に、脂溶性の高い化学物質は生物の脂肪組織に蓄積しやすく、長期的な健康影響が心配されています。
下水処理システムでの除去限界
現行の下水処理技術の限界
現在の下水処理システムは、主に大きな固形物や溶解性有機物の除去を目的として設計されており、マイクロプラスチックのような微細な粒子の除去には限界があります。一般的な活性汚泥法では、粒子径が10μm以下のマイクロプラスチックの除去率は50%程度にとどまることが報告されています。
国立環境研究所の調査によると、日本の下水処理場から放流される処理水中には、1リットルあたり平均0.1-1個のマイクロプラスチック粒子が含まれており、その多くが化粧品由来と推定されています。これらの粒子は最終的に河川を経由して海洋に流出しています。
高度処理技術の導入課題
マイクロプラスチックの除去には、膜分離技術、凝集沈殿法、高度酸化処理などの技術が有効とされていますが、これらの導入には高いコストと技術的課題があります。特に、ナノサイズの粒子の除去には、逆浸透膜やナノ濾過膜などの高度な技術が必要ですが、エネルギー消費量とコストが大幅に増加します。
また、除去されたマイクロプラスチックの適正処理も課題となっています。焼却処理では有害ガスの発生が懸念され、埋立処理では土壌汚染のリスクがあります。
規制動向と業界の対応
国際的な規制強化の動き
マイクロプラスチック問題への関心の高まりを受けて、世界各国で規制強化の動きが加速しています。アメリカでは2015年にマイクロビーズ除去海域法が成立し、洗い流し型化粧品でのマイクロプラスチック使用が段階的に禁止されています。
欧州連合(EU)でも、2018年からマイクロプラスチックの使用制限に関する検討が本格化しており、2021年には洗い流し型化粧品での使用禁止が決定されました。これらの規制は、日焼け止めにも適用される予定です。
業界団体の自主的取り組み
化粧品業界でも、自主的な取り組みが進んでいます。国際化粧品工業連合会(IFSCC)では、マイクロプラスチック使用削減のためのガイドラインを策定し、加盟企業に代替成分への切り替えを推奨しています。
日本化粧品工業連合会も、マイクロプラスチック問題への対応方針を発表し、会員企業に対して代替成分の研究開発と製品の切り替えを促しています。
消費者ができる対策と選択指針
成分表示の確認方法
消費者ができる最も直接的な対策は、マイクロプラスチック成分を含まない日焼け止めを選択することです。製品の成分表示で確認すべき主要な成分名は以下の通りです:ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ナイロン-12、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、アクリレーツクロスポリマーなど。
これらの成分が記載されていない製品を選ぶことで、マイクロプラスチック汚染の防止に貢献できます。また、「マイクロプラスチックフリー」「海洋にやさしい」などの表示がある製品を優先的に選択することも有効です。
認証制度の活用
環境配慮型日焼け止めを選ぶための指標として、各種認証制度を活用することができます。ECOCERT、COSMOS、Cradle to Cradle、Blue Angel、Nordic Swanなどの認証を受けた製品は、マイクロプラスチック成分の使用が制限されており、環境負荷の少ない選択肢となります。
使用方法の工夫
製品選択だけでなく、使用方法を工夫することでも環境負荷を削減できます。適切な使用量を守る、こまめな塗り直しよりも持続性の高い製品を選ぶ、海水浴時は可能な限り物理的な紫外線対策(帽子、衣服など)を併用するなどの方法が有効です。
これからの展望と課題
技術革新による解決の可能性
マイクロプラスチック問題の根本的解決には、技術革新が不可欠です。完全生分解性を持ちながら、従来品と同等以上の性能を発揮する代替成分の開発、製造工程での環境負荷削減技術、使用済み製品の効率的な回収・処理システムなどの確立が期待されています。
国際協調の重要性
海洋汚染は国境を越えた地球規模の問題であり、国際的な協調が不可欠です。技術標準の統一、規制の調和、研究開発での協力、発展途上国への技術移転などを通じて、全世界での取り組み強化が必要です。
マイクロプラスチック問題は、私たちの日常的な選択が地球環境に与える影響を象徴的に示しています。Ethical&SEA(エシカルシー)では、天然由来成分を主体とした商品で、肌への優しさと環境保護を両立した製品を厳選してお届けしています。美しい肌を守りながら、美しい海も守る。そんな持続可能な美容ケアを、ぜひ実践してください。一人ひとりの意識的な選択が、海洋生態系の保護と持続可能な未来の実現につながることを、店舗でお確かめください。